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▽ 小林祐介(THE NOVEMBERS) × 波多野裕文(People In The Box) × 有村竜太朗 対談インタビュー

キャリア初のソロアルバム『個人作品集1996−2013「デも/demo」』をリリース。初のソロツアー<Tour2017「デも/demo」>をスタートさせたPlastic Treeのボーカル・有村竜太朗の対談企画。第三回目は有村のミュージシャン仲間であり、今回ソロアルバムを制作するにあたって一緒にコラボレートして楽曲を創作したTHE NOVEMBERSの小林祐介(Vo&Gu)、People In The Boxの波多野裕文(Vo&Gu)を迎えて、それぞれの出会いから有村のソロ制作でコラボしたときの制作秘話、3人を取り巻くユーモラスな共通点などここでしか聞けない話をたっぷりと語ってもらった。

 

 

————先ず、竜太朗さんの方からお二人を動物に例えて紹介していただけますか?

有村:すごい質問からきますねぇ、今日は(笑)。 鷲(小林)と鷹(波多野)ですかね。

 

————竜太朗さんがお二人と出会ったきっかけは?

有村:波多野君は僕がPeople(In The Box)を見つけて「すごく素敵なバンドだ」「みんなに自慢しよう」と思って、仲のいいte’というバンドのhiro君にいったら、hiro君が「それ俺の後輩だよ」っていってte’のライブで紹介してくれたんです。「すごくCD聴いてます」って波多野君にいったら「実は僕もプラ聴いてました」といわれて、ノリも合うなと思ったんで「今度飲みに行きましょう」と誘ったのが始まりで。小林君は<JAPAN JAM>というイベントで一緒にやりませんかと声をかけてもらったのが始まりですね。元々小林君と波多野君は同世代?

小林波多野:そうです。

有村:それで一緒に飲んだりして、いまはこんな感じです(微笑)。

 

 

————こうして出会ってしまった3人の共通点といえば?

有村:共通点は‥なんだろうね? 

波多野:みんな根本的に真面目だと思います。竜太朗さんはイメージとは裏腹に、最初に話したときに音楽に対する姿勢とかがすごく誠実な人なんだなと思って。ギャップっていったら失礼かもしれないんですけど。

小林:そういう情熱が見えてこないイメージだから、どういう感情を持って音楽に臨んでるのかがなかなか見えにくいと思うんです。ミステリアスな雰囲気故に。

波多野:そういうところは作品でわかりやすく見えるものではないので。

 

————確かにそうですね。

波多野:でも、根っこにあるとこって、僕ら3人単純に「音楽が好き」という気持ちで。小林くんと竜太朗さんは特に雑念が少ない人たちだなという気がします。

小林:「音楽が好き」というのは、僕も“まさに”と思うところです。他にも挙げるとすれば、この2人に共通しているのは「独特のフェミニンな要素」なんですよ。うまく説明できないんですけど、中性的な雰囲気が2人にはあって。けれど、竜太朗さんには意外な男らしい部分もあるんですよ。話し方とか仕草とか、公のイメージにはない男っぽさを垣間見たりするところを持ちつつも、フェミニンなんです。

 

————竜太朗さんはいかがですか?

有村:僕は「意外と飲める人たちだな」というところですかね(一同笑)。そこは頼もしい。この2人は。年齢的には僕が先輩になっちゃうんですけど、この2人に関してはいろんなことを教えてもらうことの方が多いから、先輩、後輩とかあんま意識してなくて。同じ時代に生きてて、曲を作って歌を歌うという同じ仕事をしている人たちのなかでも、こんなに仲良くなれる人なんてなかなかいないと思う。なおかつ、みんな自分のバンドを持っていて、それ以外の活動もしていて。しかも、今回作品まで一緒に作れた。だから、関わり方として一番美しい形でできたと思います。これが単純に「友達です」というだけなら、まあそれだけでも素敵なことなんですけど。出会って作品まで残せたというのはすごく意味あることができたなと思ってますね。

 

————私はこの3人が奏でる音楽は浮遊感があって、現実から非現実、別世界へと連れて行ってくれるところが共通してると思うんですね。そこで、今回はみなさんがそういう音楽を作るきっかけとなった原体験というのを聞いてみたいなと思ってたんですが。

有村:俺は中1とかで、バンドでいうとU2とかになるんだろうけど。果たしてそこが原体験なんだろうか‥。でも、現実感がないところへと連れてってくれるというところでは、空想家でしたね。子供の頃から。空想ばっかしてたんで。それが中学生の頃に初めて自分の空想を表現できるものが見つかったなと思ったのが、絵を描いたりすることじゃなくて音楽だったというところかな。

波多野:そもそも僕が好きな音楽って、どこかに連れてってくれるようなもので。そういう意味でいえばSOFT BALLETでしたね。それに惹かれるというのは、さっき竜太朗さんがいってたみたいに元々自分が持ってる性質、育った環境の影響が大きいと思うんです。僕は一人っ子だったんで、ずっと一人で遊んでたんですね。遊びを自分で開発したりして(微微笑)。そういう一人遊びの因子がいつ音楽と結びついて発動されたということなのだと思います。

小林:僕が異世界に触れた原体験はアニメとか漫画だった気がします。「幽遊白書」とか「超時空要塞マクロス」とかの宇宙もの、「BLUE SEED」や「新世紀エヴァンゲリオン」。そういったもので、自分には理解が及ばない常識とかキャラクター、こんな世界があるのかという普段友達とかと遊んでるだけでは味わえない異世界を知った気がしますね。

 

————いろいろユニークなエピソードが聞けたところで、ここからはコラボした作品の制作秘話を聞けたらなと思うんですが。まずは小林さんとコラボした「浮融」。こちらの作業はどんなところから始まったんですか?

小林:まず竜太朗さんからスタジオのデモを頂きまして。「これでギターを弾いてほしい」ということで、シューゲイザーという言葉を含めたヒントをもらいまして。レコーディングではどこまでいっていいのか、やっていいのかはお任せだったので、まず弾いてみて。「どうですか?」と竜太朗さんに聞いたら「いいと思う」といわれたんですよ。僕の中では、自分がギタリストとしてプロジェクトに参加すると「そこまでやらなくてもいい」というのがどのプロジェクトでも必ず起こるんです(微笑)。でも、竜太朗さんの場合は丸ごと僕がやった音を受け入れてくれるプロジェクトだった。だから、僕は「いいと思う」と竜太朗さんにいわれて「えっ! いいのか」と驚いて。こんなに自由を感じた現場はTHE NOVEMBERS以外は初めてでした(笑顔)。だから、コラボレーションといいながらも、そのまままの自分を受け入れてくれて、僕の良さを引き出してもらうような場所を作ってもらったレコーディングだったので、すごく楽しかったです。

 

————竜太朗さんも最初からここまでシューゲイに振り切ったギターを小林さんには求めていた。

有村:小林君も、それ以外のメンバーもなんですけど、自分が望んでた以上のことをやってくれた感じなので僕も楽しかったんですよ。小林君がレコーディングしてるとき、実は他のメンバー、波多野君もいて。すごくスタジオ内もいい雰囲気で楽しくて。

小林:軽井沢みたいでしたもんね?

有村:そうそう(微笑)。合宿スタジオにいるバンドマンたちみたいな感じで、和やかな雰囲気で。小林君が弾いてるのを波多野君と「おぉー! これがシューゲイザーか」「気持ちいー!」って(一同笑)。「じゃあ次は自分の番ですね」と波多野君が言ってレコーディングが始まったら「うぉ〜、カッケー!」って。動画でも撮っとけばよかったなと思うぐらい、すごくスタジオ内がよかったんです。レコーディングであんなに楽しい日はないですね。なかなか。本当はね、小林君と羽多野君が録るすっごい大事な、緊張感を持ってやらなければという1日だったんですけど、すっごいワクワクで。

波多野:まさにそんな1日だったと思います。

有村:「何ができるだろう」っていうワクワクしかなくて。絶対あんな感じ、なかなかないよね?

小林、波多野:ないですね。

有村:「何ができるだろう」という根拠のない自信と期待感しかなかったですからね。

波多野:あの日のスタジオはレコーディングの緊張感よりも“楽しさ”が勝ってて。「何かが生まれてるな」というのを感じました。楽しいんだけどノリでやってるんじゃなくて、みんなが腹をくくってやってる。そんなブースト感がありましたね。これは竜太朗さんがどこまで意識してやっているのかは僕には分からないですけど。このメンバーを集めてここに放流したらそれだけでいいものができるに決まってるだろ、というやり方だったんです。だから、好きに泳がせるんですよ。僕らを。

小林:そうだね。だから、集めてもらった甲斐があるものができたと思います。コントロールするって、あれこれ指示することじゃなくて、出てきたものをどう自分がデザインしていくかという態度だと思うんです。一つあの現場に約束があったとすれば、竜太朗さんが真ん中にいるということだけ。竜太朗さんに向けて自分はこういう音を出す。それが作品に結実したという感じが、あの“名盤”を生んだ要因じゃないかなと思います。

有村:ありがとうございます(照笑)。

 

————では、波多野さんが関わった「恋ト幻」。こちらはどんなところから作業が始まったんですか?

波多野:僕はまずどういう形で作品に関わるかというのを厳密には決めずに取り掛かったのですが、竜太朗さんにデモをもらったときにその曲がすでに良い曲として完成されていたので、メロディーと歌詞は一切手をつけず、それ以外を自分が全部作るという形をとりました。僕がどれだけトラックでやり過ぎたとしても、竜太朗さんの声が負ける訳がないというのは最初から思ってたんで、竜太朗さんの歌が入ったものを聴いたときは、それが立証された気がして嬉しかったですね。

 

————今後もまた、この3人でコラボレーションできたらいいですね。

有村:こういう機会があれば、僕はまたお願いしたいし。僕も、お二人が何かやるときがあれば呼んでいただければ何かしら参加したいですし。それぞれバンドとしてもPeople In The Box 、THE NOVEMBERS、Plastic Treeの3バンドで何かやれたらいいなとも思うし。たぶん、こんなにいい作品が作れるなら、またどこかでやるんじゃないかなと思うんです。具体的なことは分からないですけど。それが音源なのかステージなのかも分からないですけど、何かしら意味のあるものが出せるんじゃないかなと思ってますので。これからもそこは楽しみにして、バンド生活を送りたいと思います。

波多野:こういうのって、決めずして自然に任せることが大切だという考えが僕にはあって。だから、また巡り合わせでいろんなことが起こるんじゃないかなという予感はありますね。

小林:僕も全く一緒で。ただ、僕は自分自身、おこがましい言い方かもしれないですけど、竜太朗さんと一緒にやって美しいものができない訳がないと思っているので。だから、今後も巡り会うたびにいいものが出来上がっていくつもりで、その日を待とうと思います。


 

■ THE NOVEMBERS オフィシャルサイト  http://the-novembers.com/

■ People In The Box オフィシャルサイト  http://www.peopleinthebox.com/

■ 小林祐介(THE NOVEMBERS) × 波多野裕文(People In The Box) × 有村竜太朗 ロングインタビュー  https://spice.eplus.jp/articles/97599

 

(取材・文=東條祥恵) (撮影=上山洋介)